大泉文化村(群馬)『~雅の響きへの誘い~』レポート

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2017年7月9日、中島飛行機(現スバル)の発祥地にほど近い工業の街、群馬県は大泉町のホールにて、宮下伸そして東儀秀樹によるジョイントコンサートが開催された。大泉町は工業ばかりでなく、伝統芸能の息づく文化都市の一面がある。そんな地域文化を支える人々による「文化むら箏まほろば会・まほろば笛の会」の演奏をオープニングとしてコンサートは幕を開けた。

宮下伸と、宮内庁雅楽部出身で知られる演奏家・東儀秀樹氏によるジョイントコンサートはそれぞれ一部・二部に分かれる。

第一部に宮下伸『宮下伸作品による<箏>幽玄の世界』が催された。
その演奏内容は次の通りである。

序<雅の調>『正倉院』 箏:宮下伸 篠笛・能管:岡部清風
破<雪の調>『八千代獅子変奏曲』(NHK委嘱) 箏:宮下伸
急<波の調>『海のまほろば』(文化庁委嘱) 箏:宮下伸
      『琉歌』 箏:宮下伸

コンサートのキャッチフレーズには「古典の響きを現代に伝える箏曲の匠」とあるが、より厳密に言えば宮下の爪音は”古典”ではない。伝統の作法にのっとってはいるが、その楽曲・奏法とも、現代性に裏打ちされた「現代の響き」なのである。

伝統に裏打ちされた現代の音楽であるからこそ、宮下音楽はその世界ツアーにおいて各国で称賛されたのだ。

宮下は至高の演奏技術ばかりでなく、旺盛な作曲活動でも知られ、今回のプログラムはどれも、NHKと文化庁の委嘱も含んだ代表作品である。

「唐楽」と呼ばれ我が国に伝来した、今で言う雅楽の中に今の箏の原型である楽器も含まれていた。その飛鳥の頃の響きが宮下作品の原風景であるとも言える。『正倉院』は完全な現代曲ではあるが、その感性は時代を超越していると言えるだろう。いわゆる古典である「八千代獅子」のテーマを用いた『八千代獅子変奏曲』は、まったく古典を感じさせないところが面白い。詩の朗唱を含んだ『海のまほろば』は海を母として生まれた生命の、その生死をテーマとした作品で、宮下の死生観の一端が示されている。沖縄返還の頃作られた『琉歌』は、沖縄の人々との心の触れ合いの中で生み出された作品である。あたかも海の波が常に変化する様相を見せているかのように、その響きは今でも新鮮である。

巨匠の音楽は常に進化的である。常に進化しているからこそ、聴衆はその響きに感動を覚える。この日、奏された宮下の爪音はまさに現代の爪音そのものであった。(秀龍)

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