箏:宮下 伸
司会:徳田 章
企画構成:宮川 和幸
カテゴリーアーカイブ: 演奏
【ラジオ】NHK-FM『邦楽百番』令和3年6月26日(土)11:00〜11:50
邦楽百番 ▽現代邦楽「四重奏曲 漆」「双調の曲」ほか
後藤すみ子,高畑美登子,中島裕康,渡辺紅山,宮下伸,尾崎秀美芳,中村昇
楽曲
- 「四重奏曲 漆」
松本 雅夫:作曲
(「漆」三絃)後藤すみ子、(「漆」箏)高畑美登子、(「漆」十七絃)中島裕康、(「漆」尺八)渡辺紅山
(12分28秒)
~NHK509スタジオ~「独奏箏のための壽」
西行法師:作詞
野田暉行:作曲
(唄と箏)後藤すみ子
(11分12秒)
~NHK509スタジオ~「双調の曲」
初世宮下秀冽:作曲
(高音箏)宮下伸、(低音箏)尾崎秀美芳
(10分05秒)
~NHK509スタジオ~「朗唱による箏独奏曲「海のまほろば」」
岡野弘彦:作詞
宮下 伸:作曲
(朗唱と箏)宮下伸
(8分55秒)
~NHK509スタジオ~「琉歌」
宮下 伸:作曲
(箏)宮下伸
(3分45秒)
~NHK509スタジオ~
演奏会直前……只今リハーサル中
練馬の宮下伸箏曲研究所にて。
二胡の有川小夜子氏と、新作初演曲「平和への祈り」リハーサル中。
【今週】2019年6月22日宮下伸箏・三十絃作品演奏会
大泉文化村(群馬)『~雅の響きへの誘い~』レポート
2017年7月9日、中島飛行機(現スバル)の発祥地にほど近い工業の街、群馬県は大泉町のホールにて、宮下伸そして東儀秀樹によるジョイントコンサートが開催された。大泉町は工業ばかりでなく、伝統芸能の息づく文化都市の一面がある。そんな地域文化を支える人々による「文化むら箏まほろば会・まほろば笛の会」の演奏をオープニングとしてコンサートは幕を開けた。
宮下伸と、宮内庁雅楽部出身で知られる演奏家・東儀秀樹氏によるジョイントコンサートはそれぞれ一部・二部に分かれる。
第一部に宮下伸『宮下伸作品による<箏>幽玄の世界』が催された。
その演奏内容は次の通りである。
序<雅の調>『正倉院』 箏:宮下伸 篠笛・能管:岡部清風
破<雪の調>『八千代獅子変奏曲』(NHK委嘱) 箏:宮下伸
急<波の調>『海のまほろば』(文化庁委嘱) 箏:宮下伸
『琉歌』 箏:宮下伸
コンサートのキャッチフレーズには「古典の響きを現代に伝える箏曲の匠」とあるが、より厳密に言えば宮下の爪音は”古典”ではない。伝統の作法にのっとってはいるが、その楽曲・奏法とも、現代性に裏打ちされた「現代の響き」なのである。
伝統に裏打ちされた現代の音楽であるからこそ、宮下音楽はその世界ツアーにおいて各国で称賛されたのだ。
宮下は至高の演奏技術ばかりでなく、旺盛な作曲活動でも知られ、今回のプログラムはどれも、NHKと文化庁の委嘱も含んだ代表作品である。
「唐楽」と呼ばれ我が国に伝来した、今で言う雅楽の中に今の箏の原型である楽器も含まれていた。その飛鳥の頃の響きが宮下作品の原風景であるとも言える。『正倉院』は完全な現代曲ではあるが、その感性は時代を超越していると言えるだろう。いわゆる古典である「八千代獅子」のテーマを用いた『八千代獅子変奏曲』は、まったく古典を感じさせないところが面白い。詩の朗唱を含んだ『海のまほろば』は海を母として生まれた生命の、その生死をテーマとした作品で、宮下の死生観の一端が示されている。沖縄返還の頃作られた『琉歌』は、沖縄の人々との心の触れ合いの中で生み出された作品である。あたかも海の波が常に変化する様相を見せているかのように、その響きは今でも新鮮である。
巨匠の音楽は常に進化的である。常に進化しているからこそ、聴衆はその響きに感動を覚える。この日、奏された宮下の爪音はまさに現代の爪音そのものであった。(秀龍)